企業がドメインを取得する際、使用目的だけを優先させるのではなく、その後の運用や管理の方法などを考慮した上で、適切なドメイン管理会社を選定することも必要となります。この記事では、企業がドメイン取得をするために必要なドメインの選定からサーバへの登録・申請に至るまでの大まかな流れをはじめ、ドメイン取得時の注意点や取得サービス会社の選び方のポイントまでを解説しています。
海外展開におけるWebサイト戦略と
パートナー選びのポイントについて解説しています。
1.ドメイン取得サービス会社とは?
ドメインの取得サービス会社とは、企業が新しいWebサイトやサービスサイトなどを開設する時に必要な、「独自ドメイン」を取得できるサービスを提供している会社のことを指します。
独自ドメインとは、取得した企業や個人だけが利用できる専用ドメインです。独自ドメインには通常、自社の社名やサイトで扱う製品・サービス名などを使用します。社名や製品名が含まれるドメインを使うことで「企業・製品と関係があるサイトである」とユーザーに信用、認知してもらいブランディングに役立たせることができます。
<独自ドメインの例>
企業が取得する独自ドメインはこのように、自由に文字列を指定できる部分には自社名やサイト名、サービス名を用います。ドメインネームは.(ドット)で区切られた文字列で階層構造が表記され、右から上位の階層となります。
上の図を例にすると、最上位となる一番右側はTLD(トップレベルドメイン)と言います。TLDにはいくつかの分類があり、このうち、「.jp 」「 .co.uk 」「 .net.cn」など各国、地域ごとに割り当てられているドメインのことを「ccTLD」、地理的な制約なく登録できるトップレベルドメインを「gTLD」と言います。 左の「mark-i」は自由に決められる文字列で、ここでは企業名を利用しています。
TLD、ccTLD、gTLD、SLDなどドメインに関する基本用語については「用語集-1(ドメインネーム・関連組織)」をご覧ください。
また、独自ドメインを取得する際にドメイン登録情報検索サービス(WHOIS) を活用すれば、どのドメインを誰がいつ登録したかを調べることができます。使いたい文字列が既にドメインとして存在している場合、取得することはできません。また、自社で使いたい文字列と類似の文字列が関係のないサービスや信用性の劣るサイトで使われているケースもあります。ドメイン登録情報検索サービスはこのようなケースを事前にチェックしておき、その上で自社に最適な独自ドメインを検討するためにも役立ちます
2.ドメイン取得の流れ
ここでは、独自ドメイン取得を進める一連の流れについて、それぞれのポイントを解説します。
①ドメインを決める
最初のステップとして、ドメインの前半部分の自由に選べる文字列と、URLの最後の文字列で最も上位の階層であるTLD(トップレベルドメイン)を決めます。
TLDは現在1,000種類以上存在しており、この中から選びます。ただし、自由に選べる文字列とTLDを組み合わせたドメインが既に誰かに使用されている場合、企業の独自ドメインとして取得することはできません。
TLDを選ぶ際のポイントについては、以降の③各国ドメインの特徴を押さえているか?に詳しく記載しています。
また、さまざまな種類のTLDについては、以下のリンク先で紹介しています。
自社で使用したい文字列とTLDの組み合わせが既に使用されているかは、ドメイン登録情報検索サービス(WHOIS)でキーワード検索をして調べることができます。
②ドメイン専門会社で取得する
取得するドメインを決定したら、ドメインの取得・登録を専門で行っているサービス会社に依頼し、独自ドメインを取得します。ドメインの専門会社ではなくともレンタルサーバ等を提供する会社でも、サーバ契約と同時にドメイン取得をすることも可能です。ただし、取得できるドメイン数が少ない、取得後の専門的なサポートがないなどデメリットがある場合があります。
なお、ドメインの取得可否は取得サービス会社のサービスを通じて検索することも可能です。
③ネームサーバ申請を行う
ドメインを取得しても、「ネームサーバ申請」(DNSサーバ申請)という手続きを行わないとドメインをWebサイトやメールアドレスに利用できません
インターネットに接続しているパソコンやスマートフォンなどの機器には「111.22.333.44」のような番号である、IPアドレスが割り当てられており、インターネット上における通信は、自分と相手先のIPアドレスを用いて行われます。
例:「http://mark-i.co.jp/」をパソコンに打ち込んだ時の流れ
①インターネットに接続しているパソコン:「http://mark-i.co.jp/」のIPアドレスは?
↓
②ネームサーバ(DNSサーバ):「http://mark-i.co.jp/」のIPアドレスは「111.22.333.44」
↓
③インターネットに接続しているパソコン:IPアドレス「111.22.333.44」へアクセスし、Webサイトがブラウザに読み込まれる
ドメインは取得した段階ではどのIPアドレスにも紐付いていないので、ドメインとネームサーバを紐付ける設定や手続きが必要なのです。
DNSレコードを登録してドメインネームをIPアドレスに変換する(名前解決)
「111.22.333.44」のようなIPアドレスを「mark-i.co.jp」などの分かりやすい独自ドメインの形式に変換するには、ドメインとIPアドレスを紐づける情報(DNSレコード)を「ネームサーバ」に登録する必要があります。
ドメインネームをIPアドレスに変換する仕組みを「名前解決」と言い、これを管理しているコンピュータが「ネームサーバ」(DNSサーバ)です。
ネームサーバ(DNSサーバ)の詳細な仕組みについては用語集-2(DNS・サーバ関連)をご覧ください。
3.ドメイン取得の注意点
ここでは、独自ドメインを取得する前に注意しておきたい基本事項や、ドメイン取得後の運用をする上で知識として知っておきたい注意点を解説します。
ドメイン決定時の確認事項
ドメイン取得前に押さえておきたい基本的な確認事項は以下の3つです。
①顧客に伝わるドメインか?
ドメインは対象のサイトが自社やサービスに関するものであると顧客に伝わる文字列にするのが理想的です。そのため、どのような文字列にするか、自社内で検討が必要です。ドメインはシンプルで短い方が価値があるとされますが、顧客から見て分かりにくい省略名などにするのはお勧めできません。
また、混同しやすい文字や一目見て他の単語と間違えやすい文字列などは予め候補から省き、誤解がないネーミングに絞る必要があります。
②長すぎるドメインになっていないか?
会社やサービス名をそのままドメインにするなど、ドメインが長いと、顧客からも覚えにくく、またサイトにアクセスしにくくなります。略称でも伝わる場合は略称にするなど短く簡潔に設定します。
③各国ドメインの特徴を押さえているか?
TLDを検討する際は、日本企業が使うドメインや各国、地域のドメインの特徴を把握した上で候補を考えましょう。
国・地域 |
特徴 |
---|---|
■日本企業のドメイン |
・「.co.jp」は1社1ドメインしか取得できない決まりがある |
■地域性を持たないドメイン |
・gTLD(ジェネリックトップレベルドメイン)と呼ばれる |
日本企業のドメインである「.co.jp」や、地域性のないドメインの「com」では、使いたい文字列が既に使用されて使えないという場合もあります。その際は、ラベルの部分※の見直しや別のTLDを検討しなければなりません。
※ドット(.)で分けられた個々の文字列のこと
例:「mark-i.co.jp」の場合、(.)で分けられた「mark-i」「co」「jp」の部分それぞれの文字列
4.運用を踏まえた注意点
①各国ドメインの特徴を押さえているか?
他社の製品やサービスなど、既に商標登録されている名称を知らずにドメインに使用していた場合、商標権の侵害と判断される危険があります。使用ドメインが商標権侵害に当たると判断された場合、ドメインの使用停止だけでなく損害賠償請求をされる可能性があるのです。
商標登録を行う特許庁と、ドメインの管理を専門にする会社とは、それぞれ別々の団体です。自社が取得したドメインが商標権を侵害していないか完全に把握するのは難しいですが、有名なブランド名はドメインに使わないようにするなど、事前のチェックが要ります。
②ドメイン取得が、保護目的なのか使用目的なのか明確にしておく
ドメイン取得には、Webサイトやメールアドレスにドメインを利用する「使用目的」と、ブランディングに影響しそうなドメインを予め取得しておき、他人に使われないようにする「保護目的」があります。一つの企業が、他人に使われることでブランディングに影響しそうなドメインを保護目的で数百個以上取得しているというケースも珍しくありません。
使用目的でドメインを取得する場合では、「新しいドメインを取得すべきか」まずは検討します。この他、既にドメインを持っている場合は、「既存ドメインを利用してそのディレクトリ配下にWebサイトを作るか」または「サブドメインを使用してWebサイトを公開するか」どちらかの選択肢もあります。なお、サブドメインを使う場合「同一の会社が運営している」というイメージを顧客に与えやすい、というメリットがあります。
既存サイト(mark-i.co.jp)がある場合の対応の違い
新しいドメインを取得する | (■■■.co.jp) |
---|---|
既存ドメインを利用してそのディレクトリ配下にサイトを作る | (mark-i.co.jp/▼▼▼) |
サブドメインでWebサイトを公開する | (●●●.mark-i.co.jp) |
なお、「新しいドメインを取得すべきか、既存のドメインのディレクトリを利用すべきか」を考える上では、どちらを選ぶのか、企業内で統一したルールを設けるようにしましょう。どのような判断基準でドメインを取得するか、前もってルールを参照できる体制作りが進んでいれば、「新しく取得するのか、ディレクトリ配下にサイトを作るのか部署判断で対応がばらばらになる」といった事態も防止できます。
③似たようなドメインが第三者に悪用されるリスクがないか
独自ドメインを取得した後、似たようなドメインが第三者に悪用されフィッシング※に使われたり、類似ドメインを取得した海外のWebサイトで模倣品を販売されたりといった被害に遭うリスクがあります。直接自社が問題を起こしていなくとも類似のドメインが使われていた場合、フィッシングの被害者や品質の低い模造品を購入した消費者からの低評価やクレームにつながる可能性があるのです。
こうしたリスクを避けるためにも、独自ドメインを一つ取得する時には、類似のドメインの複数取得も同時に検討する必要があります。
独自ドメイン(example.jp)の他に取得する類似のドメインの例
<example 部分は変えない類似ドメイン>
・example.com
・example.co.jp
<example と一文字違いの類似ドメイン>
・exanple.jp(mをnに変更)
・examp1e.jp(lを1に変更)
・exammple.jp(mが多い)
<example 部分はそのままccTLD(国別トップレベルドメイン)に変えたドメイン>
・example.us(アメリカ合衆国)
・example.co.uk(イギリス)
・example.com.cn(中華人民共和国)
・example.co.kr(大韓民国)※実在する有名企業(組織)のURLやWebサイトを偽装し、偽サイト (フィッシングサイト)にクレジット番号やパスワードなどを入力させる詐欺のこと
5.管理委託先決定の注意点
独自ドメインを取得・登録できる、取得サービス会社は数多く存在していますが、ドメインは取得して終わりではありません。長期的なドメイン管理・運用や幅広いサポートを考えた上での選定が重要となります。
取得後の運用や管理を踏まえ、ドメインを取得したい企業担当者が検討材料にすべきサービス会社の選び方のポイントを紹介します。
①維持費用はドメイン取得後の管理体制と合わせて検討する
ドメインを取得する際は、ドメインの取得サービス会社と契約する維持費用や初期費用についての比較検討が必要となりますが、「ただ費用が安いか、高いか」だけを選定の基準にするべきではありません。なぜなら、費用が安くともドメインを取得した後の運用・管理に対するサポート体制が整っていないと、取得後に想定以上のコストがかかる可能性が高いためです。
例えば、ただ「初期費用が安い」という基準で取得サービス会社を選択した場合、ドメイン取得後は自社でドメインの更新手続きなどの管理作業を担わなければならなくなり、結果、管理コストが余分に発生してしまうことがあります。また、ドメインの取得料自体が安価でも、ドメインの更新料や移管料などを含めると、全体的に費用が高額になってしまうという場合もあるでしょう。
「ドメイン取得後、どのようなドメインの管理体制が必要か」、また「管理体制構築のためにどのような管理・運用のサポートを取得サービス会社に求めているか」に応じて必要な維持費用は変わってきます。
特に、自社内でドメイン管理や運用を行う体制が十分に整っていない、これから部署ごとに管理ルールを決めていくという企業の場合、「ドメインを取得して終わり」ではなく、長期的なドメイン管理のあり方や得られる管理のサポートを踏まえた取得サービス会社の選定が重要となります。「安さ」だけに拘らず、以下の表を参考にドメイン取得後のリスク管理の面や運用・管理サポートの有無を選定の軸の一つとしましょう。
取得サービス会社のタイプ | 特徴 |
---|---|
①取得後は自社でドメイン管理をするタイプ |
<費用面> <発生リスクとその対応> |
②取得段階からドメイン管理体制が手厚いタイプ |
<費用面> <発生リスクとその対応> |
②TLD(トップレベルドメイン)の取り扱いはあるか
ドメインの取得サービス会社は、それぞれ扱っているドメインの種類・国や地域が異なります。その中でも、「グローバルサイトなら.com」「日本のサイトならjp」 など、自社のWebサイトのニーズに合ったTLDが豊富に取り扱われている会社であるかどうか、まずは確認します。
その取得サービス会社のTLDの取り扱いが豊富なほど、希望したドメインを取得できる可能性が高まります。日本のサイトだけでなく、各国別のWebサイトや国別コンテンツの展開を視野に入れている企業にとっては取得できるドメインの幅の多さは取得サービス会社を検討する上での重要な選定軸となります。
③その他、考慮すべきポイント
初期費用・維持費用ともに比較的高い会社には、「ドメイン取得後に必要な運用・管理サポートの体制がある」「自社ニーズに合ったTLDの取り扱いも豊富」などの特徴があります。前述したこれらを取得サービス会社選定の大きな軸とすべきですが、この他にも考慮しておくと良い選定ポイントを紹介します。
・電話やチャットのサポート体制は充実しているか
知見がある担当者が自社にいない場合は電話での問い合わせなどサポートの窓口が開設されているサービスを選ぶのも良いでしょう。問い合わせフォームやチャットボットでの質問を受け付けているサービスもありますが、電話でのサポートがある場合はトラブルがあった、不明点が出てきたという時に日を跨がず解決が可能です。
・セキュリティ対策は実施されているか
サイバー攻撃やWebサイトの乗っ取りへの対策を実装したドメイン管理が可能なサービスも存在します。リスク管理の一環としてセキュリティ面を考慮する企業は、これらの対策が可能なサービスかどうかも事前に検討しておくと良いでしょう。
・WHOIS情報の公開代行サービスはあるか
取得サービス会社の中には、WHOIS情報の公開代行サービスを行っている会社もあります。1章でも触れた「WHOIS」とはインターネット資源の登録情報を提供するサービスであり、「WHOIS情報」とは、登録者、登録者の住所、電話番号、メールアドレスなどドメインの登録情報を指します。登録情報は、WHOISで検索すれば誰でも見られる状態になっていますが、ドメイン取得・管理を行う会社への問い合わせ先情報がデータベース上に公開されるため、情報の保護につながります。
ただし「.co.jp」などのTLDは公開代行サービスの対象外となっているため、TLDを企業用に使用するのが前提のドメインでは活用できない場合があります。
6.まとめ
自社で独自ドメインを取得する際には、ドメインに使用する文字やTLD(トップレベルドメイン)の種類はもちろん、契約するドメインの取得サービス会社の精査が必要です。
取得サービス会社を選定する際には、自社でドメイン管理を行う予定なのか、またはトラブルにも対応しやすいよう手厚い管理体制を求めるかによって、必要となる費用の目安も変わってきます。特に、ブランド保護を優先とする、海外でのコンテンツ展開も視野に入れているという場合、安易に安い取得サービス会社を選定するのはリスク管理の面から見ても避けるべきです。
ドメイン取得後の運用・管理の面で自社が実施すべきことは何か、取得サービス会社にどのような支援を求めているか、まずはここを明らかにします。その上で、複数ある取得サービス会社のタイプや対応範囲の違いなどの選定軸から、自社ニーズに合った会社を検討しましょう。ドメイン取得後、将来的には自社でドメイン管理体制を築きたいという企業の場合も、まずは管理方法の見直し支援までがサポート範囲に含まれている会社を選ぶと間違いがありません。
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